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大阪地方裁判所 昭和32年(行)81号 判決 1959年10月06日

大阪市福島区上福島北三丁目一三一

原告

松本英子

右訴訟代理人弁護士

真鍋喜三郎

大阪市福島区亀甲町一丁目

被告

福島税務署長 小林真治

右指定代理人大蔵事務官

山口修二

大蔵事務官 岩橋富太郎

法務事務官 原矢八

大蔵事務官 平井武文

検事 藤井俊彦

右当事者間の昭和三二年(行)第八一号贈与税無申告加算税決定処分取消請求事件につき当裁判所は左のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告が原告に対する昭和二十九年分贈与税として税額を九万円無申告加算税額を二万二千五百円とした決定はこれを取消す訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求めその請求の原因として原告は昭和二十九年六月二十九日有限会社割烹岩田屋設立に際し同会社に金六十万円の出資をなしたが右出資金六十万円は(一)原告が昭和二十九年四月二十五日頃義姉婿なる訴外小林信二から借受けた金十八万円(二)同日頃義姉なる訴外田中キヌエから借受けた金二十万円(三)原告の手持金二十二万円を以て之に充てたものである蓋し原告の夫松本茂太は昭和二十一年復員して以来原告の肩書住所で岩田屋の屋号で料理業を営み原告はこれを手伝つてきたものであるが営業の性質上原告が事実上営業の中心となつて活動してきたもので夫茂太からその働きに対する報酬として支給せられた金員のうち一部は貯蓄し又その一部を以てその営業上必要な道具什器類を買入れていたが右の如くにして原告が貯蓄していた手持金二十二万円を以て前記出資金の一部に充て又右買受の原告所有道具什器類(代金合計四十三万九千五百円相当のもの)を有限会社割烹岩田屋設立後原告から同会社に譲渡しその代金を以て右小林信二並びに田中キヌエからの借受金を返済したものであつて右出資金六十万円は他から贈与を受けたものではないから贈与税の課税決定を受くべきものではない。然るに被告は昭和三十年十二月十三日右出資金六十万円は原告が他から贈与を受けたものとして原告に対し昭和二十九年分贈与税として税額九万円無申告加算税額二万二千五百円の賦課決定をなして原告に通知したので原告はこれに対し昭和三十年十二月二十七日被告に対し再調査の請求をなしたが昭和三十一年三月六日却下せられたそこで原告はこれに対し同年四月三日大阪国税局長に対し審査請求をなしたところ同国税局長から昭和三十二年八月六日再調査請求に対する却下決定を取消し審査請求棄却の決定がなされ翌七日原告はその決定通知を受けた。よつて被告に対し右贈与税賦課決定の取消を求めるため本訴請求に及んだと述べ

立証として甲第一号乃至第五号証を提出し証人田中キヌエ、同小林信二、同松本茂太の各証言並に原告本人訊問の結果を援用し乙第一号証は松本茂太名下の印が同人の印であることは認めるけれどもその余は不知同第二号乃至第四号証の各一、二はいずれも税務署作成の帳簿であることは認めるけれども内容は不知、同第五号乃至第七号証はいずれも成立を認め同第八号乃至第十号証はいずれも不知と述べた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として原告が昭和二十九年六月二十九日有限会社割烹岩田屋の設立に際し同会社に金六十万円の出資をなしたこと、被告がこれに対し昭和三十年十二月十三日右出資金六十万円は原告が他から贈与を受けたものとして原告に対し原告主張の如き贈与税無申告加算税の課税の課税決定をなしてこれを原告に通知し原告がこれに対し同年同月二十七日被告に対し再調査の請求をなしたが昭和三十一日三月六日却下せられ原告からこれに対し更に同年四月三日大阪国税局長に対し審査請求をなし同国税局長から昭和三十二年八月六日再調査請求却下決定を取消し審査請求棄却の決定がなされ翌七日原告にその通知がなされたことは認める。しかしながら原告の右出資金六十万円が原告主張の如き借受金並びに原告の手持金を以てこれに充てられたものであることは否認する原告の夫松本茂太は原告の肩書住所で岩田屋の屋号で料理業を営み原告がこれに協力して手伝つていたが昭和二十九年六月二十九日右個人営業を有限会社割烹岩田屋に改組したのであるが右松本茂太は同会社設立に当りその妻である原告にこれが出資をなさしむべく原告に金六十万円を贈与しこれを受贈した原告においてこれを出資金に充てたものであつて被告が原告の昭和二十九年分贈与税についてなした本件課税決定は何等違法の点はないと述べ

立証として乙第一号証第二号乃至第四号証の各一、二、第五号乃至第十号証を提出し証人平井武文の証言を援用し甲第一、二号証第五号証はいずれも成立を認め同第三、四号証は不知と述べた。

理由

原告が昭和二十九年六月二十九日有限会社割烹岩田屋の設立に際し同会社に六十万円の出資をなしたこと、被告がこれに対し昭和三十年十二月十三日右出資金六十万円は他から贈与を受けたものとして原告に対し原告主張の如き贈与税無申告加税の課税決定をなしこれを原告に通知し原告がこれに対し同年同月二十七日被告に対し再調査請求をなしたが昭和三十一年三月六日却下せられたので更に同年四月三日大阪国税局長に対し審査請求をなし同国税局長から昭和三十二年八月六日再調査請求却下決定を取消し審査請求棄却の決定がなされ翌七日原告にその通知がなされたことは当事者間に争のないところである。

ところで右出資金六十万円について被告は原告において全部これを原告の夫松本茂太から贈与を受けたものであると主張するのに対し原告は右出資金の内金十八万円は訴外小林信二からの借受金内金二十万円は訴外田中キヌエからの借受金残二十二万円は原告の手持金を以てこれに充てたものである旨主張するので按するに真正に成立したものと認める乙第一号証同第二号乃至第四号証の各一、二、証人松本茂太の証言並びに原告本入の供述を綜合すると原告の夫松本茂太の母りきゑは昭和二年頃から原告の肩書住所でりきゑ名義で岩田屋の屋号で料理業を営みその後松本茂太がその営業を継承し同人が昭和十八年三月応召、昭和二十一年五月帰還する迄の間その妻である原告が同人名義で営業した外は松本茂太において名実共にその営業に当つてきたもので原告はその妻としてこれに協力し手伝つてきたものであること、右松本茂太は昭和二十九年六月二十九日右個人営業を有限会社に改組して出資総額二百万円の有限会社割烹岩田屋が設立せられるに至つたものである事実が認められる。しかして証人田中キヌエは昭和二十九年四月頃原告に対し金二十万円を貸与し同年七月未か八月初頃これが返済を受けた旨又同小林信二は原告に対し金十八万円を貸与しこれが返済を受けたことがある旨証言し証人松本茂太並びに原告本人も田中キヌエ並びに小林信二からの借受金を以て原告の右出資金の一部に充て残余は原告の手持金を以てこれに充て、原告所有の右料理営業用の道具什器類を右会社設立後同会社に譲渡しその代金を以て右各借受金を返済した旨各証言並びに供述をなすけれども右各証言並びに供述は証人平井武文の証言並びに同証言により真正に成立しものと認める乙第八号乃至第十号証の記載と比照し措信し難く原告爾余の全立証によるも、右出資金が原告主張の如く借受金並びに原告の手持金を以て充てられたものであることを確認することができないのであつて右事実に前認定の如く有限会社割烹岩田屋設立に至る迄右割烹岩田屋の営業は名実共に原告の夫松本茂太によつて営まれたもので原告は妻としてその営業に協力し手伝つてきたものであること、及び成立に争のない乙第五号乃至第七号証により認められる原告の肩書住所の住宅並びに右割烹岩田屋の営業に使用せられている建物及び各その敷地なる宅地は全部松本茂太の所有に属し原告としては何等不動産を所有していない事実に前記乙第八号乃至第十号証証人平井武文の証言並びに弁論の全趣旨を綜合すると原告の右出資金六十万円は全部原告の夫茂太からの贈与によるものであることが認められる。してみると被告の原告に対する本件贈与税並びに無申告加算税の課税決定は適法であるから原告の本訴請求を棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野田常郎 裁判官 山本久已 裁判官 池尾隆良)

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